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「それだけじゃないですよ、課長に頼まれる仕事は面倒なのが多いって」
「それは、あいつのスキルを伸ばしてやろうと思えばこその事」
「柳本さんよく言ってましたよ、俺はペルソナの仮面だ、本当の自分になるんだって、ま、今回の事は、最後の抵抗だったのかもしれませんね」
「知らなかったのは俺だけだったって事か......」
あいつも仮面だったんだ、というより仮面をつけていない人間というのはいるのだろうか、柳本は俺よりも永本との繋がりが強かった。信頼していたというのは俺の一方的な考えであって、柳本には苦痛に感じていたのだと、今分かった。
「ま、俺も巻き添えにされたのが、気にくいませんけどね」
この会社には、俺の知らない世界が広がっている。既に俺の居場所はないのかもしれない。いっそのこと今、この場所で辞めてしまってもいいのではないか、俺には何も無くなったのだから――
「おい、佐藤! いつまでサボってるんだ、早くデスクに戻れ! お前はそんな事まで言わなきゃ分からないのか」
部長の叫ぶ声は、一段とうるさかった。
――まぁ、今の仕事が片付いてからゆっくり考えよう、デスクに戻り、キーボードを叩いた。いつも暖かかった隣の席は何の変化もないのに、ガラリとしていて、冷たく感じた。
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