仮面の自分

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 嫌なもので仕事をしている時は、何もかも忘れられる。  目の前の事を淡々とこなしていれば時間が過ぎる、頑張る事もせず、残業も程々に時間が経てば帰る。退職の事は部長には明日言えばいい、今日は真っ直ぐ帰りたい、仕事が終わるとそんな気持ちになっていた。  しかし家に帰ったところで自分の存在が分からなくなる。帰りたいが帰りたくない。そんな矛盾を抱えて歩いた。このまま駅のホームから飛び降りれば楽になるのか、ふと、頭の中にそんな事が過ぎる。地下鉄の車両が見えなくなるまでその場にいた。  大体の部屋の灯りは付いていた、自分の家の灯りだけ歯が抜けたようにポツリと消えている......  筈だった――
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