仮面の自分

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 やがて始業時間か近づくと、毎朝の儀式のようなものが始まる、入り口に目をやり凝視する。しばらくすると部長が入ってくる。 「おはようございます!」  顔の見えた瞬間、俺の声で全員が立ち上がり頭を下げ、揃って同じ挨拶をする。その中を悠々と歩いて自席へとたどり着く日永(ひなが)部長、その姿はモーゼの十戒のようだった。 「おう」  一番奥の中央に位置する一際大きなデスク、モニターが三つも置いてある。ゆっくりと歩き背もたれが頭まで覆ってくれる座り心地が良さそうな椅子にドカッと座り込んだ事を確認して、俺達は頭を上げて業務に戻る。  カタカタとキーボードを打つ音が部屋の中に響く、俺の席は部長の目の前だった、蛇に睨まれた状態での業務の重圧はかなりのものだ。そんな中、ガチャリとドアが開く。  消えそうな声で会釈と挨拶をして自席へつくのは、新人の永本(ながもと)だ、十五分の遅刻だった。ドアから一番近い彼の席に座りパソコンを立ち上げる。  何も気づかないふりで画面から目を離さなかった。ヤバイだろこれは、そう思い顔は正面を向けたまま目だけを部長に向けた。 「おい!!」  ほら来た、と、部長の大声が社内の全ての音を消す。当の本人は何くわぬ顔でパソコンに向かう、雷が落ちる、部長の説教は一度始まると三十分は終わらない。 「佐藤!!」  ......は? 俺?  躊躇している暇は無い、呼ばれると即返事。これは暗黙の了解だった。 「はい」 「何すっとぼけた顔してんだよ、来い!」  立ち上がり部長のデスクの横に立つ。 「何であいつ、遅刻してんだ?」 「いや......寝坊、じゃないんでしょうか?」 「......でしょうかだぁ? 仕事にそんな返事は無いんだよ、「はい」と、「です」しか無いんだよ! そもそもお前の教育が出来てないから、あんな奴が出てくるのだろうが! 罰として、あいつの遅刻分、お前の給料から引いとくからな」 「......部長それは」 「うるさい! だから「はい」しか無いって言ってるだろう、しっかり下を教育してくれよー、特にあいつには大口案件任せてるのだぞ、分かっているのか? この会社はお前の教育にかかっているんだからな」 「......はい」
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