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「帰りました」
会社に帰ったのは二十時を回っていた。社内に響くキーボードの音がしない、今日は金曜か......こぞってこの会社の人は金曜の夜には早く帰りたがる。それで気がついた。
「お帰りなさい、課長」
「ああ、柳本お疲れ」
誰もいないと思ったが、隣の席の柳本だけが、まだ仕事をしていた。こいつは、週末になるにつれてクマが濃ゆくなる。今日の色は黒に近いものがあった。
「大丈夫か、お前」
「あ、大丈夫ですよ、これくらい」
「あっ、待ってろ」
再度ドアを開け、廊下に置かれてある自販機でコーヒーを二本買った。アイスを選んだつもりがホットを押していた。持つ事もままならない程に熱い缶をハンカチで包んで持つ。
「ほらよっ」
柳本の隣にコーヒーを置くと同時に椅子に座る。
「あ、ありがとうございます」
「ホットだけどな」
遅かった「あっちぃ」と言う声と共に缶に触れた手を離す柳本、何故か目を見合わせて笑った。
「課長、なんで夏にホットなんですかー」
「悪い、ミスってな」
「でも、目、覚めますよ、ありがとうございます」
「そ、そうか?」
喉を通るコーヒーは本当に目が覚めるように熱かった。
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