仮面の自分

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 一日中寝ていたい、家から一歩も出たくない、と、いうのが本心だった。嫌ではないのだが目の前ではしゃぐ妻を見ていると、疲労が蓄積される。口に出すと彼女を傷つけてしまうだろうから、俺は笑顔で手を振った。  旅行といっても日帰りで帰れる距離の場所だった。仕事が忙しく、まともな旅行は新婚旅行以来だった。旅館の部屋にいても心の何処かで仕事の事がつきまとう。急に呼び出されたらどうしよう、すぐに戻らなければと思うと三十分に一度はスマホのメールを確認していた。だが呼び出されたとして、妻の悲しむ姿を見る事になるのも嫌だった。  頼むから、急な仕事が入らないでくれ、それだけを心底願った。 「何、さっきからスマホばかり見て、楽しくないの?」  日も暮れて豪勢な料理が目前にある状況で、険しい表情が磨理(まり)にばれてしまった。別にやましいわけでは無い、胸を張って言えばいいのだが、自分の性格を呪い殺したい。 「いや、ま、まあな、悪い悪い」 「何、浮気?」 「ち、ちがっ......」  一口目のビールが気管に入ってむせてしまった、これでは浮気していますと言っているようなものだ。 「そうなんだ......」  箸を置いて俯く磨理「いや、違う」と、今更言った所で信じてもらえそうもない、立ち上がり部屋を出ようとする磨理の手を掴む。 「いや、本当に違う! 違うんだよ」  腕を上下左右に振る磨理だったが、俺も掴んだ手を離す訳にはいかなかった、より一層の力を入れる。 「痛いよ」  ようやく彼女の勢いも収まってくれた。 「待ってくれ、じゃあスマホ見ればいいだろ?」  片方の手を伸ばしテーブルの端に置いてあるスマホを取り、彼女の前に出す。目は口ほどに物を言うものなのかは分からなかったが、俺の目は真剣そのものだった。 「知ってるよ......そんな事」 「は?」
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