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『課長、旅行中なのにすみません、永本の担当案件からのクレームです』
「内容は? どんなクレームだ!?」
スマホの相手は柳本だった。永本の案件といえば、なぜか部長に可愛がられていた彼が引き受けた大口のクライアントだ。これが契約破棄なんかになると、会社に大ダメージだ。
流れる嫌な汗と、大きくなってしまう声、慌ただしくベランダへ飛び出した。
『デザインが全く違うとの事です、恐らく提案したいくつかの中から選んだものが、あいつのミスでどこかで差し替わったのだろうと......』
「で? 永本は?」
『電話に出ません、というか電源切りやがってます』
「あいつ!」
『課長、まだ部長の耳には入っていません、今日中にデータを差し替えて、翌日の夕方に刷り上がれば、間に合います』
「すぐ帰る、まだ部長には言わないでくれよ」
『とりあえず、データを探します、課長は気をつけて来て下さい、本当すみません』
「柳本が悪い訳じゃないよ、頼む」
スマホで時刻表を確認する、かろうじてまだ電車がある、今から出れば会社へは終電で到着できそうだ。
部屋に入るとすぐに浴衣から洋服へ着替える、磨理にはきっとまたガツンと言われるだろう、でも俺の中に行かないという選択肢は無い。歯を食いしばりながらTシャツを被った。
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