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あまーい香りが漂う短期のバイトで入ったお菓子工場。
最初は友達の誘いとお小遣い稼ぎが目的だった。
大学に通いながら適当に稼いでは遊びまわって、一年は過ごしてたかな?
何かとドタバタする一年を終えると、ふいに暇になった。
なんとなくその辺に転がってる漫画を読んで、心機一転。
死ぬ気で働いてみようと思った。
オレもやってみようと思った。
学校が休みだったらとにかくシフト入れて、ギチギチに働く。
始めの方はきつかったけど、だんだん慣れてきて、オレでもいけるじゃんと思った。
自分で言うのもなんなんだけど、オレはあんまり仕事ができない。
しかも残念ながら……できないって評価もされてる、と思う。
それでも、毎日コツコツとバイトに来て働くオレを見て、多分評価してくれた社員さんが、社員さんの部署にオレを呼んでくれた。
(よっしゃ!)
呼ばれた部署は出荷メインで忙しいから、できる人しか行けないってバイト仲間で噂になってる所。
(やるぞー)
少しだけ緊張しながら、バイト仲間三人で部署へと向かう。
初めて向かう区画。扉をくぐると威厳を放つ社員さんと白衣を着た女性がいた。
「おはようございます」
「おは……」
「おー伊月! よく来た! やらかすなよ!」
社員さんの声で女性の挨拶がかき消える。
「しませんよぉ!」
大人しい人なのかもしれない。
でも、社員さんとオレ掛け合いにクスクス笑っている。
(優しそう。よかった)
これが彼女──高智(こうち)さんとの初めての出会いだった。
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