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秋の日のさよなラッパ
栗山隼人とお付き合いを始めて1週間と2日目。できたばかりの彼氏に人気のない廊下に呼び出されれば、多少の期待はしてしまうのが乙女心で、放課後、ミディアム丈の髪をわざわざ結び直して出向いたのだ。だが、夏休みの日焼けが大分抜けてきた栗山は、そこでこう言った。
「ごめん、宮本。俺、やっぱり別の人と付き合うことにしたから」
目の前が真っ暗になった。
* * *
9月も下旬に入り、世の中の空気もぐっと秋めいてきた。まさに「天高く馬肥ゆる」、見事な秋空だ。ミステリーによく出てくる京都の名所も、ぼちぼち紅葉しているに違いない。いやまだ早いか。ああ、高校の制服もそろそろ冬服かな。
栗山と「別れた」宮本楓は、そんなどうでもいいことを考えながら、校舎の外に出て秋晴れの敷地内で散歩を始めた。目的なんてない。歩きたくなったから楓はただ歩いた。時折、冷ややかな風が夏服のセーターの中へと染み込んでくる。
この高校に入学して、栗山と同じクラスになって。一体、半年の学園生活のどこで彼を好きになったのだろう、と自虐的に思う。顔がかっこいいとか、運動神経がいいとかいった要素ではなくて、もっと人柄の部分で惹かれたのだと思っていたが、所詮は表面しか見ていなかったということか。
まさか、あんな人だったなんて。
ぐす、と楓は鼻を鳴らした。友達にも悩み事なんてなさそうだと言われるのに、柄にもなく涙ぐんでしまっている。
幸い、近くに他の人はいなかった。グラウンドの中央ではサッカー部が三角コーンを使ってステップの練習をしている。指導の声やホイッスルの音が耳に届いた。考えなしに歩いてきた楓は、グラウンドの端に並んでいる樹木のところへたどり着いていた。
様々な音をぼんやりと聞き流して、楓はタイルでグラウンドと分けられた黒い土を踏むと、そこに生えている木を順々に眺めていった。定番のサクラ。ほっそりとした若木が上品に立っている。確か他にも何本かあるはずだ。こちらはユリノキ。面白い形の落ち葉が土の上に寝転がっている。樹齢4、50年はありそうな幹だから、高さも相当――。
楓は何気なく視線を上に移して、ハッとした。溜まりかけた涙が瞬きで弾ける。
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