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あれから、何時間経ったのだろうか?
目が覚めると、そこには見知らぬ外国人が立っていた。
その男は、僕に近づくと片言の日本語で「大丈夫か?」と尋ねてきた。
一瞬、何が起きたのか分からなかったが、腫れた頬の痛みが、事の状況を教えてくれた。
なるほど、僕は殴られたのだ。
僕と一緒に来ていた、ナンパ友達の良平はどうやら逃げて帰っていってしまったらしい。
良平とは、クラブで知り合っただけのナンパ友達で、強い繋がりがない分、逃げるのも分かる気がした。二人は、ナンパをする為だけに、繋がったちっぽけな友情関係だった。
確かに、良平のナンパテクニックはクラブの中でも、目を見張るものがあった。
他の男が、可愛い娘と話していても関係なく、その間に入り、その娘を奪っていく。実に見事だった。
その点、僕はナンパは好きだが得意ではなく、まず女の娘と話す前に一度、頭の中で成功した場面をシュミレーションしてから動き出す。さらに良平は、怖いもの知らずなのか、誰とでも簡単に話す事が出来る。僕はターゲットを決めてからでないと動き出せない。
また、動くことも出来ずに、まるでお地蔵様のように固まってしまうことだってある。
ナンパに向いていないのだろう。
記憶を失う前、二人はナンパに奮闘していた。
良平が立ち上がり、クラブの中の一番かわいい娘に話しかけに行ってしまい、完全に取り残されてしまった。仕方がないので、テーブルに腰をかけて、わずかに残っているジントニックを一気に飲み干した。すると目の前に一人の外国人美女がお酒を片手につまらなそうに立っていた。チャンスだと思い、猪突猛進、僅かな勇気を振り絞り、声をかけに行った。
恐る恐る話しかけると、彼女は気さくに片言の日本語で話してくれた。
名前を聞くと、アシュリーという名だった。
彼女の生まれはイギリスで現在は日本に短期留学で来日していて、簡単な日本語なら話せるらしい。話していくうちに彼女に夢中になっていった。
クラブの薄暗い明かりと外国人特有の独特の匂いが、また僕を興奮させていった。
調子に乗って、彼女の腰に手を回し、電話番号を聞こうと携帯電話を取り出した瞬間、何やら固いものが僕の頬をえぐっていった。
どうやら彼女の外国人の彼氏だったようだ。
目が覚めると、彼の友達が僕に大丈夫かと尋ねて来た。
この時僕は誓った。「ナンパ」この3文字の単語から離れる生き方を選ぶと。
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