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500m程進んだ道端に何かが見える。 何かというより人だ。 錯覚などでは無い。 しっかりと人だ。 髪の長い女が後ろ向きに立っている。 心臓が跳ね上がった。 (どうしよう・・どうしよう・・よくある怖い話のパターンのやつじゃん。どうしよう・・でも停まったらダメだよね、絶対、ダメだよ、きっと!) どんどん近づく車に選択を迫られ 迷い悩んだ結果 女を見ないようにして そこを通過した。 追いかけてこないか、車に乗り込んでいないか色々な想像をしてしまう。 心臓は爆発しそうだった。 何事も無く乗り越えたかと安心した頃 また その女が立っていた。 全身に鳥肌が広がる。 ハンドルを持つ手もアクセルを踏む足もガタガタと震えてきた。 女は少し顔が見える角度で立っている。 もう怖くて何も考えられない。 無視するしかなかった。 そして500m程進んだ先に その女はこっちを向いて立っていた。 ダランと垂れ下がった腕。 グチャグチャの長い髪。 左頭は陥没し、そこから溢れ出た大量の血が左半身をべったりと染めている。 下から睨みつけたその目は氷のように冷たく鋭く突き刺さってきた。 (もうやめて!お願いだからやめて!) 心の中で思いっきり叫んだ。 女は今にもこっちへ向かってきそうだ。 (どうしよう、どうしよう、フロントガラスに乗っかってきたらどうするの?気づいたら助手席にいたとか絶対マズイよ、どうしよう) 色んな事が猛スピードで頭を駆け巡る。 (こんな所で何かあって事故でも起こしたら後ろで寝ている子供達を守りきれないわ!私が何したって言うのよ!あんたに構ってられないのよ!私の大事な子供達にちょっとでも何かしたら例えあんたが何であれ絶対許さない!!) 心の中で強く強く思った。 女は顔を歪ませる程 歯を食いしばり鬼の形相でこっちを見ている。 恐怖は もう無かった。 何としても子供達を守ると それだけを考えていた。 真っ直ぐ前を向き 「私は あんたなんか知らない!」 そう言いながら女の前を通過した。 その後 女は現れなかった。 どこまで走っても女はいなかった。 真っ暗な闇をぬけ ぽつりぽつりと町の明かりが見えてくる。 コンビニの明かりが見えた時、渇いた目から涙がこぼれた。
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