第三章 閻魔の思惑

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朝だというのにヨシュアの周囲は薄暗く、暖炉の炎だけが寄り添っている錯覚を起こす。 耳の奥で甲高い耳鳴りが響き、こうしていてはティアラやシモンを心配させるだけだとわかっていても、視界が狭まっていくのは止められそうになかった。 そんな鬱の深みに嵌まっていく最中、ふと外から明るい気配がするようで思わず顔を上げて確認すると、ヨシュアの心臓は高く跳ね上がった。 「おお、これでも気付いた。相変わらず、ヨシュアは敏感だな」 窓越しに、にやにや笑う見知った顔を見つけて驚いた。 ヨシュアは寒がりな体質も忘れて、雪がちらつく中で硝子戸を全開にして出迎える。 「アベル、エルマ!!」 一瞬、助けに来てくれたのかと飛びつきたくなったが、すぐにそうではないと自分に言い聞かせて尋ねるべきを尋ねた。 「新婚夫婦は?」 「あの二人なら、もう少しウェイデルンセンでいちゃついてるって」 「そうか」 ならよかった、と内心で胸を撫で下ろす。 こんな状態で、あの兄まで相手にする余裕はない。 「アベルとエルマは……って、どうかしたのか」 目が合った瞬間から楽しげなアベルと違って、エルマは珍しくぶっすりして見える。 「ああ、大したことじゃないから、気にしないでへーきへーき」 代わってアベルが否定したが、隣のエルマはお前が言うなと文句をつけたそうだった。
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