第三章 閻魔の思惑

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「こっちこそ、ごめん。ヨシュア、早く閉めてあげて」 エルマが話を切り上げると、アベルと並んで背を向けた。 それだけのことなのに、ヨシュアは妙な寂しさを感じてしまった。 まるで、二度とこの関係に戻れなくなるような空虚さに胸を締めつけられて、思わず二人を追って部屋を飛び出していた。 吐き出す息が白く流れると、アベルとエルマは驚いて振り返った。 「何やってんだよ。俺達、玄関に回るだけだぞ」 アベルに言われると間抜けなことをしたと恥じ入る自分とは裏腹に、足は引き返そうとは動かなかった。 大気に結晶が舞い散る寒さに体温は奪われていくけど、あまり体感としてはなかった。 「それとも、俺達に何か言いたいことがあるのか」 アベルに問われて、ヨシュアはようやく試されているのだと気がついた。 いつもだったら小ずるい本心を、すぐ逃げたがる本音を口にしないヨシュアの意固地な性格を補うように以心伝心で助けてくれる世話焼きな二人が、今日に限っては厳重に覆い隠しているやわな胸の内を言葉として待っている。 だけど、一度は黙って縁を切ろうとした身の上で、どんなことを望めるだろう。 「言えよ、ヨシュア」 辛抱強く待っているアベルは、焦れったい限界にきていた。 「もう、俺達と一緒に見たい景色はないのか」 その一言に、ヨシュアはハッとさせられた。 ウェイデルンセンで過ごして広がったヨシュアの世界はとんでもなく果てしなかった。 それでも自分を見失わずにいられたのは、アベルとエルマという他人との付き合い方を測れる物差しがあったからだ。 必要以上に警戒心の強い小心者が箱庭を出て歩き出す為の指針は、いつだってアベルとエルマだったのだ。 二人がいてくれたらと考えたことなんて、両手を合わせたって足りる気がしない。
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