第三章 閻魔の思惑

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「アベル、エルマ」 ヨシュアは一人ずつ見つめて名前を呼んだ。 「すごく厄介で複雑なことがあって困ってる。助けてほしい」 深く下げた頭でヨシュアは思う。 凄腕の大人達に流されるがまま立っている自分では誰かを巻き込んでも責任なんてとれないし、安全の確保だってできやしない。 それでも、この二人を手放すことは選択肢に入れられなかった。 「うっしゃ、これで好きに動ける!」 返事を待つ真剣なヨシュアの頭上でアベルは拳を握って喜んだ。 それから、エルマと手を叩き合って気持ちを分かち合っている。 「はあ、よかった。一時はどうなるかと思ったよ」 「なー。人一倍頑固で格好つけなのは飽きるくらい知ってるから、マジでヒヤヒヤしたわ」 深刻な緊張を解き放ってはしゃいでいる二人に、置いてきぼりなヨシュアはものすごく引っかかった。 「アベル、エルマ」 「「ん?」」 「その盛り上がりっぷりは、どういう意味だ」 「あー、なぁ……」 二人はしばらく互いに語り手を譲り合っていたが、最終的にはアベルが押しつけられた。 「先に言っとくけど、怒るなよ」 「話による」 「だよなぁ」 頭を掻き掻き言葉を選んだアベルによれば、ウェイデルンセンの案内として新婚旅行に連れてくれたのはミカルの建前で、実際はレスターを取り巻くオアシスの環境とヨシュアの現状を伝えておくのが目的だったらしい。
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