42人が本棚に入れています
本棚に追加
そしていよいよ、千紗の誕生日当日。
誕生日を祝うという名目で、大野と下見に来たレストランに連れていく。
「……このレストラン、あのレシートの……」
「……知ってんのか?」
「…ううん。あたしの誕生日の為に予約してくれたのよね?その…ありがとう…」
「ああ……」
……ここ数日やたら機嫌の悪かった千紗が、突然頬を染めてしおらしくなった。
なんかよく分からんが……これなら上手くいくか?
予約していたコース料理を味わって、上機嫌の千紗。
後はデザートが来るだけ、という時だった……。
店内で演奏されていたピアノが、突然今までと打って変わって軽快なメロディを奏で始めた。
それはすぐによく聴き慣れた曲に変わる。
……「Happy Birthday」だ。
更には、店員がやって来てデザートの乗ったプレートを千紗の前に置いた。
そこにもチョコレートで「Happy Birthday Chisa」と書かれている。
「お誕生日おめでとうございます」
「あ…ありがとうございます!」
周りのテーブルからも拍手が聞こえる。
千紗は驚きながらも顔を綻ばせて、俺の顔を見る。
「ビックリした……でもありがとう、悟」
「あ、ああ……」
……勿論、こんな晒し者みたいな真似を俺自らがする筈がない。
心当たりがあるとすれば……下見の時、大野に潰されて意識を失くした時間があった。
あの時に大野が……?
いつもだったら間違いなく後でシメるような展開だが……
予想外に喜んでいる千紗の顔を見たら、あろうことか感謝の気持ちさえ湧いてきた。
……しかしそれも間違いだったと、この後すぐ思い知らされる。
最初のコメントを投稿しよう!