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昴さん以外の男性経験がないとはいえ、鈍感にもほどがある。
多少の罵声は覚悟しようと心に決め、沈黙が続くこの車内の空気を、車が家に着くまでひたすら我慢した。
そして住んでいるマンションに到着し、心配そうに私達を見守る御木本に見送られ、二人で家の中に入る。
私は彼の後ろ姿を見つめ、昴さんはリビングのソファに勢いよく座り込むと、怒りが混じった盛大なため息をついた。
「今までもあんな密会をしていたのか?」
言葉数は少なく、でもやはり言い方は荒々しくて威圧的だ。
私は何度も首を横に振った。
「先生とは教室以外で会ったのは、今日が初めてです」
「そうか、今日が逢引きの始まりか」
「……なぜ、そのような思考になるのですか」
まるで私が先生に好意を持っているような言い方をする彼の言葉が悲しく、歯を噛みしめ真っ直ぐに見つめる。
「当たり前だろう。仲睦まじく一緒に酒を飲み、寄り添っていたじゃないか。俺があの時、間に入らなかったらどうなっていた?」
「どうもなりません。私はあなたの妻ですから」
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