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「そんなこと……思ったことありません。私はただ……」
そこまで口にすると、なぜか頬に冷たい筋の感触がする。
瞳が潤みだして、視界がじわりと滲み始めた。
「な、なぜ泣く……!」
そして焦る昴さんの声が聞こえてきて、私は初めて自分が泣いていることに気付く。
指先で頬を触ると、そこには溢れて止まらない涙が次々と流れていた。
「少しだけ……お待ちください」
泣いている自分を見られたくなくて、私はリビングを出て早足で洗面台へと向かった。
忙しないスリッパの音が廊下に響き、胸の鼓動も焦りからかかなり激しい。
「やだ……どうして泣くの……」
突然泣いた私を見て、彼はいったいどんな気持ちになっただろう。
私は今起きた出来事をどうにか無くしたい気持ちでいっぱいになりながら、水で濡らしたタオルを顔に当て続けた。
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