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先生は典型的な熱血教師だった。
最初、僕たちはその鬱陶しさに反抗したものだった。
授業を妨害したり、ボイコットしたり。
反抗し続けていると、先生たちは口ではうるさく言っても、諦め始める。
先生もそういう先生たちと同じだと思っていた。
けれど、先生は諦めなかった。
深夜徘徊する僕らを見つけ出しては家に連れ帰り、食べるご飯のない生徒にはご飯を食べさせ、親に恵まれなかった僕らのような生徒に、父親のように面倒を見てくれた。
「自分の人生は自分でつかめ」
「どんな環境でも、諦めるな」
「助けを求めていいんだ。おまえたちには守られる権利がある」
「おまえたちのことは、先生が助ける。絶対にだ」
暑苦しいセリフ。もちろん、僕たちは「はい、はい」と聞き流した。
けれど、先生に反抗するのはやめた。
先生が担任だった年の体育祭は、今までで一番楽しかった。
初めてクラスがボイコット以外で一致団結した。
「一生懸命やるってのも、いいもんだろ」
先生はそう言って、にかっと笑った。先生は笑うと、子供っぽい。口元にエクボができるんだ。
「なんでも、一生懸命やらないと楽しくないんだから」
そう言って、一生懸命やった僕らにアイスをおごってくれた。
けれど、先生は死んだ。
居眠り運転だった。
先生が死んだことを知らせたその口で、校長は言った。
「お前たちが殺したんだぞ」
「先生はお前たちのために、睡眠時間を削っていたんだから」
校長の言うとおりだと思った。
深夜徘徊する僕らを探したり、親にネグレクトされている生徒を保護してくれる施設を探したり、悩み相談に遅くまで付き合ってくれたり。
僕たちは先生のお葬式に出た。みんな泣いていたけれど、僕は泣けなかった。
泣いてはいけない気がした。
先生には小学生の娘がいた。
黒いワンピースを着て、先生の奥さんの隣で怒ったような顔で涙を堪えていた。
この子から先生を奪ったのは僕らだ。
先生が父親になってくれたような気がしていた。けれど、本当は先生はこの子の父親だったのだ。
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