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僕は目を開けた。
変わらず、僕の部屋にいた。
殴られたところは鈍く痛みが残っているが、問題はなさそうだ。
部屋には君はいなかった。
慌てて出て行ったのか、玄関のドアが開けっ放しだった。
「イテテ」
頭をおさえて玄関のドアを閉めようとしたところに、
「あの……」
声をかけられた。
僕に声をかけたのは、40代ぐらいの女性だった。
「申し訳ございません」
頭を下げて、顔を上げたところで、僕の記憶と顔が結びついた。
「先生の……」
「妻です」
当時よりも年をとって、疲れたようにみえる。でも、今なぜ……。それに、どうして僕の家を?
「少し、お話できますか」
「あ、どうぞ」
僕は部屋に奥さんを招き入れた。
「私のせいです」
僕は先生の奥さんがなんの話をしているのか、わからなかった。
「私、あなたたちのこと、憎んでました」
僕の家の小さなテーブルの前に奥さんがちょこんと座っている。
僕は怖くなった。奥さんは僕を責めに来たのだ。
「主人はほとんど家にいませんでした。朝から晩まで仕事、仕事で、娘よりも生徒といる時間のほうがずっと長い。他人のこども育ててないで、自分のこども育てなさいよって喧嘩したこともある」
返す言葉がない。
「それを、娘は知っていたのかもしれません」
僕は先生の葬式の時の、小学生の女の子を思い出した。怒っていた。僕たちに怒っていた。
「けれど、あなた達は悪くない」
奥さんは、机の上に一枚の写真を置いた。
体育祭の時の写真だ。先生が真ん中で笑っている。先生は笑うとエクボができる。
壁を見ると、飾っていたはずの写真がない。
「本当にごめんなさい」
奥さんは手をついて頭をさげた。
「顔をあげてください」
「娘が……人を殺したと」
奥さんの声は震えている。
「帰るなり、この写真を渡して、人を殺したと。パパの仇をうったよと」
君はーーー
君はーーー
先生の娘だったのか。
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