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大地は兜町にある本店営業部に戻った。
本店は、丸の内の本社のスタイリッシュではあるがその反面、無機質にも見える高層ビルとは対照的だった。
会社が設立された昭和初期に建てられ、大谷石で覆われた瀟洒なデザインの外壁は、戦時中の空襲にも耐えた。文化財として保護の対象になってもおかしくない建物だが、使い勝手に難があった。
断熱材が入っていないので、エアコンの冷気にしろ暖気にしろ、建物の外へダダ漏れなのである。したがって、夏は異様に暑く、冬は異様に寒かった。
しかし、さすがに店舗にあたる一階だけはお客様の手前、そんなことは許されないので、リノベーションして、金融機関の店舗特有の「夏は羽織るものがほしいほどの寒さ、冬は半袖でも過ごせるくらいの暑さ」の室内を保持している。
だから、営業部のある二階は、昔ながらの室温を維持していたので、あまり腰を落ち着けられるエリアではなかった。
……ま、つべこべ言わずにとっとと外回りに行け!ということなのだろうが。
席に着いた大地は、早速、課内でも腹心の部下である主任の小田を呼んだ。
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