Prologue

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東京駅のすぐ(そば)、「あさひ証券」の東京本社ビルの、役員室のあるフロアに向かうエレベーターの中に上條(かみじょう) 大地(だいち)はいた。 大地は普段、昭和の初めに設立されたあさひ証券発祥の地である兜町の本店営業部で、営業二課の課長として勤務しているのだが、今日は大地の父でもある専務から呼び出されて、丸の内の本社にやって来たのだ。 あさひ証券は、全国に二百数十社あると言われる証券会社の中で十本の指に入る準大手である。 全国に散らばる支店を統括する、東京本社には会長と社長、大阪支社には専務、名古屋支社には常務が常任していた。 専務が大阪から上京してきたのは、本社で開かれた重役会議のためだ。 まるで、上空に吸い込まれるように透明のエレベーターが上っていく。 眼下に見える、東京のビル群。 チン、という軽やかな音の後、エレベーターが停止した。
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