Prologue

4/11
前へ
/280ページ
次へ
大きな窓の前に立って、眼下の「東京」を眺めていた専務の上條 真也(しんや)が振り向いた。 「……おう、大地、元気そうだな。かあさんはすっかり大阪に馴染(なじ)んだぞ。毎日、美味(うま)いものを食べて『宝塚』にハマってる」 東京生まれ東京育ちの母親の上條 紗香(さやか)が、未知の地・大阪で上手くやっていけるのか、大地は少し心配していたのだが、杞憂になってよかった。 紗香は、あさひ証券の創業者の曾孫(ひまご)で現会長の次女である。 社内で優秀と認められた真也と結婚して大地を産んだが、転勤族の夫について行くことは一切なく単身赴任させ、東京で一人息子の大地をほとんど独りで育て上げた。 ところが、大地が大学を卒業してあさひ証券に入社したとたん、わたしの役目は果たしたとばかりに、いきなり夫の住む大阪へ旅立って行ったのだ。 以来、大地は広尾の実家を出て、勤務地の兜町に近いマンションで一人暮らしをしている。
/280ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6694人が本棚に入れています
本棚に追加