デスティネーション

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 待ち合わせた、校舎の一番端にある空き教室に、彼は先に来ていて、わたしのことを待っていた。ああいう湿った雰囲気苦手なんだよな、という。果たして本当にそうだろうか。最後のホームルームで、ちらりと横目で見た彼の目は、何かが弾け飛ばないように、ぴんと張り詰めていた気がするのだけど。 それとなく「いつ、引っ越すんだっけ」と彼に訊いた。 「三日後」  彼は頭の後ろにやっていた手を、身体の前にもってきて指と指をからめると、うぅん、と唸りながら伸ばした。ぽき、と鳴ったのがわたしの耳にも届いてくる。 「やっと一区切りついたから、あとは寝る間を惜しんで荷造りだ」 「そう」  とりあえずそんな相槌を打ったはいいけれど、わたしの気持ちは、そんな二文字だけで収まるものだろうか。いや、収まらないことはわかっている。もう、きっと溢れそうになっている。けれど、彼のわたしに対する気持ちが、わたしの彼に対する気持ちと、合っていないように感じる。上皿天秤は、わたしの方に深く、深く、沈んでいるのだ。かと言って、わたしの気持ちが消え去った時、果たして天秤は彼の方へ大きく傾くだろうか。
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