デスティネーション

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 結局、当たり障りのない世間話みたいなことばかり喋って、日が傾いてきたのに気づいて、そろそろ帰ろう…という流れになった。どんなにくだらない、取るに足らないことでも、わたしは確かに楽しかったのだが、なぜだか今日は心臓が弾け飛びそうなくらいに疲れてもいた。できるだけ長く彼と一緒に過ごしたいと思って、がんばって喋り過ぎたことが原因なのは、とっくに理解していた。  校舎を出たとき、(からす)が二羽ほど、茜色の空を、西の方へ飛び去っていった。沈みかけた夕日にその姿が重なろうとした時、烏はそれぞれ違う方向にターンして、どちらもわたしの視界から消えていった。  これから、わたしと彼も、あの烏みたいに別々の道を歩くことになる。そのことを暗示しているみたいで、それがその存在のせいかどうかはさて置いて、わたしは神様とやらを心底恨んだ。神の見えざる手、とやらで彼の目指すものをひん曲げてほしいくらいだったが、それが彼にとって幸せなことでないということはわかるし、そもそも今はアダム・スミスなんて何の関係もなかった。 じゃあ、と言いかけたところで、彼の方がわずかに、早かった。 「佳澄(かすみ)
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