デスティネーション

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「昭人くん。わたしたち、これから大学生だよ」  きょとんとした表情をしながら、彼は「…そうだけど」と呟く。だからなんだ、と彼の瞳が訴えかけてきた。男の子の割には、いやにぱっちりとしたその瞳を正面から見据えながら、わたしは続けた。 「人生がフルコースの料理なら、今って、まだ魚料理くらいなんだよ。肉料理も甘いものも、食後のコーヒーすら出てきてないのに、終わるってことはないよ」 「…ああ」  ふだん、わたしがこのくらいの勢いで喋ることはない。だから戸惑っているのか、自分がこれまで付き合っていた女が実は別の星から電波を受信していたと落胆しているのか、それはわからないが、今のわたしにはどうでもいいことだ。伝えなきゃいけないことは、今、伝えなきゃいけないから。 「あくまでこれは、魚料理を食べ終えた、という意味での終わりなの。これからきっと、また来るんだよ。脂のしたたる、ひと噛みするたびに命の美しさを感じられるような、すんごい肉料理が」 「それが大学生活のこと?」 「と、社会人生活ってとこかな」 「ふうん」  彼はなんだか脱力した調子で、自分のつま先の方を見下ろしていた。だいぶ雪は融けていて、わたしたちの足元では、アスファルトが限りなく黒に近い灰色に沈んでいた。彼が蹴飛ばした小石は、近くに積まれていた雪山の下あたりに、ずぶりと埋まった。
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