デスティネーション

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デスティネーション

「ま、なんだかんだ言って、落ち着くべきところに落ち着いたね。お互いに」  それは、わたしなりに紡いだ、精一杯の強がりの言葉だった。多分、彼にこの言葉の真意が届くことはないということは、理解している。もう、この人の性格なんて、イヤというほど知っている。 「そうだな」  彼は、頭の後ろで手を組みながら、椅子の背に身体をあずけた。わずかに軋んだ音が聞こえたけれど、それは椅子を構成している木材から出たものなのか、やっぱり想像通りだった…と感じたわたしの心が軋んだ音なのか、いまいちよくわからなかった。  彼と付き合っていたのは、高校二年生の冬から、高校三年生の春、つい数分前までの間のことだ。別に、とりたてて目立つわけでもなかったわたしを、工業製品みたいにみんな同じ顔をしているはずの同学年の女子の中から見つけ出したのは、彼の方だった。いつも小説ばかり読んでいたわたしに合わせようと、放り出したくなるのを必死にこらえて活字を追いかけていたと白状したのは、付き合って半年くらいになった頃だっただろうか。その頃になってしまえば、わたしは彼と一緒にいるのが当たり前になっていたし、彼はわたしよりもずっと前からそれを当たり前にしたがっていたから、今更わたしに無理して合わせなくてもいい…と告げた。  だからって、彼がいきなりテレビゲームとかそういう他の娯楽に転ぶわけでもなく、最初は正直言って無理矢理読んでたけど結構おもしろいんだな、なんて言いながらよく図書館へ一緒に行ったりしたというのは、将来、高校時代の想い出話をする時に使えそうなエピソードだとは思う。ただ、こっ恥ずかしくてよっぽど仲良くならないと話すことはできなさそうだ。
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