第3章 瞳をとじて

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第3章 瞳をとじて

いよいよ最後の3曲目をセットする時がやって来た。また誰か夢の中に出て来て起きられたら、あのおやじが言ってた事は本当で、いや、そんな筈が無いとと思う自分と、2度あることは3度あると思う自分がいて、セットする手が震えて来た。そもそも、どうして俺の記憶に残っている曲ばかり入っているのかが一番の謎だったので、今度会った時に真っ先におやじに聞いてみようと思った。 ラストの3曲目は「瞳をとじて」だ。これが一番胸に刺さる曲だ。この曲に関係する人物は、中学の時初めて付き合った初恋の彼女しかいない。長い髪に大きな目の彼女は超可愛くて、俺から告ってできた初めての彼女だ。花音はこの曲が大好きで、彼女の家へ遊びに行くとよくピアノで弾いて聞かせてくれたっけ。手しか繋いだ事もない清らかな関係だったけど、ある日突然理由もわからず別れを告げられ、しばらくすると彼女はなんと俺の親友の坂口と付き合い始めた。俺は彼女と親友をいっぺんに失い、中学時代は暗黒だった。 花音が出て来て欲しいような、欲しくないようなほろ苦い思い出だ。 そんな事をあれこれ思い出していると、いつしか俺は深い眠りに落ちていった。 「まーくん、まーくん、花音だよ。起きてよ!」 やはり彼女が出て来たかー。彼女は美し過ぎる大人の女性に変身していた。 そんな彼女がまぶしくて、照れくささもあり、俺は少し怒った口調で話しかけた。 「花音、中学の時坂口に乗り換えといて、今さらなんで出て来たんだよ。」 「まーくんにあの時の事、謝りたいってずーっと思ってたの。 私、坂口くんにまーくんが浮気してるとかいろいろ言われてそれを 信じちゃったの。まーくんに直接聞けば良かったんだけど、確かめるのも怖くて…でも、坂口くんが私と付き合いたくてついた嘘だって事が、しばらくしてわかったんだ。本当にごめんなさい。」 「なんで、その時戻って来てくれなかったんだよ」 「今更私の事許してくれないと思って連絡もできなかった。でもさっき 「瞳を閉じて」の曲が聴こえてきて、ピアノで弾いていたらなぜだか分からないけどここに来れた。私達今からでもやり直せないかな?」 「俺はずっとおまえの事好きだったし、今でも好きだ!!」 「私もずっとまーくんの事好きだったの」 俺たちはしっかり抱き合い、中学時代より一歩進んだ関係になった!! そこで俺は飛び起き、世界の中心にいるつもりで叫んだ。 「やったー!!」 時間を見るとやはり6時ジャスト! こんなに会いたい人に会える時計なんて、絶対これからもこの時計を使い続けたいと思い、あのおやじに礼を言おうと目覚ましを持って店に行ったら、なんとお店は陳列していた商品も全て無くなり、もぬけの殻になっていた。 俺はしばらく茫然と立ちつくしていたが我に返り、隣の顔見知りの八百屋のおばさんに、聞いてみる事にした。 「お久しぶりです。小さい時によくこの店に来てた田口 誠です。 3日前までここにあった古い時計店はいつ閉店したんですか?」 と聞くと、 「何言ってるんだい!この時計店が閉店したのは随分前の事だよ。あれは5年前位かな。店主さんはお店でいきなり倒れて意識を失ってそのまま亡くなってしまって。そうそう、その目覚まし時計を最後まで大事そうに抱えて。」 「そんなバカな!3日前におやじさんと話してこの時計を買ったばかりなのに!!」 俺は目覚ましを抱えその場にへたへたと座り込むと、急に胸が苦しくなりそのまま倒れてしまった。 「ちょっとお兄さん、大丈夫かい? 大変だ!だ、誰か救急車呼んどくれ!!」
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