十二番線

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※※※ 由紀は一人、電車の中で揺られていた。 あれ?あたし、確か刑務所に居たんじゃなかったっけ? 電車の振動が心地よい。 車窓は雨。 ああ、このままどこか遠くへ、誰も知らない場所へ行きたい。 そして、人生のすべてをやり直したいの。 あたしの人生は、こんなことで終わるはずない。 そうでしょ? もっともっと華やかな未来があったはず。 「そうね。そして、私と赤ちゃんにも未来はあったはず。」 女の声にはっとして顔をあげると、彼女は笑った。 畳んだ赤い傘からは、雫が流れ落ちて、その雫が赤く染まりながら由紀の足元に流れて来た。 震える手で唇を押さえた。 そこには、彼女が立っていた。赤い傘から雫が流れているわけではなかった。 マタニティー服のスカートの中から足を伝って赤い血が流れ落ちて傘を伝って由紀の足元を濡らす。 「次は~きさらぎ~終点きさらぎ駅です。お忘れ物のないようご用意願います。」 車内アナウンスが流れる。 由紀は声も出せずに、目の前の女を見つめている。 すると女は握った掌から小さな飴を彼女の目の前に差し出した。 「食べて?」 たぶん、これは食べてはいけない。 由紀が首を横に振る。 すると女は鬼のような形相になり、無理やり由紀の口をこじ開けて飴をねじ込んで飲み込ませた。 「ねえ、あなた。よもつへぐいって知ってる?あの世の物を食べると、二度と現世に戻れないの。」 由紀は電車に揺られながら、遠のく意識の中、女は赤い傘を差して満面の笑みを浮かべた。 ※※※ 朝、女は冷たくなっていた。 死因は不明。 ただ、女の口の中からは、あたえたはずもない、赤い小さな飴が見つかった。
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