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十三番線
俺は今、猛烈に焦っている。
寝過ごした。
とりあえず、脱ぎ散らかしていた服をもう一度身に着けると、靴も満足に履けないままに玄関を飛び出した。三十路の大の男が誠に情けない話だが、現在独身、彼女無しの一人暮らし。俺の生活態度について留意してくれる者はどこにもいない。
よって飲み過ぎた翌日が、この体たらくである。
駅のホームにたどりつくと、電車の到着のメロディーが流れていた。間に合った!
俺は滑り込みセーフで、電車に乗ることができた。
電車に乗って気付いたことだが、この時間と言えば、座るところが無いほど混雑しているはずなのに、余裕で座ることができた。違和感を感じつつも、俺は電車に間に合ったことの安堵から、少しウトウトしてしまった。ハッと気づくと、電車はまだ走っており、乗り過ごした不安にかられて車窓を見るも、そこにはいつもの景色が窓を流れており、安堵のため息をついた。まだ目的の駅ではない。
その時、いきなり電車内にアナウンスが鳴り響いた。
「次は~、終点、きさらぎ駅。お忘れ物のないようご用意願います。」
えっ?嘘だろう?今一度、車窓を確認するも、そこはいつもと変わらぬ景色だったが、こんな街はどこにでも存在するかもしれない。もしかして、乗り間違えた?
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