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そこは確かに俺が働いている会社で、同僚も上司も同じ面子だった。
ところが何かが違う。
静かなのだ。
いつも怒鳴っているパワハラ部長も、調子の良い八方美人の同僚も、いつも愚痴ばかり言っているネガティブな部下も、皆一様に、黙々と業務をこなしている。
まるで世の中の感情というものが全て消え去ってしまったような世界。
昼休みも、俺が冗談を言って同僚を笑わせようと試みるも、まるで御愛想のような微笑みを残すだけで、とうてい生の人間とは思えなかった。
あいつの言っていたことは、本当なのか?
俺はこの不思議な世界で日々を過ごしてきた。
きさらぎ駅に着いた時の、俺そっくりなあいつはどこにも居ない。
なんなんだ、この世界は。人間はどうなってしまったんだ。
争いも無い、喜びも無い。ただただ、人は歯車のように働いて、うわべだけの関係を築いて生きてる。
気持ちが悪い。
漠然とした澱が、俺の中に降り積もって行く。
俺は鏡で自分を見た。
俺は誰なんだ?
この世界は虚構なんじゃないだろうか。
俺はふと、幼少の頃を思い出していた。
幼少の頃、母親の実家に三面鏡があって、無限に続く自分自身の姿に不思議な感覚を覚えた。
合わせ鏡。もしかしたら・・・。
俺は、早速鏡を一枚買ってきて、洗面所の鏡に面する壁に取り付けてみた。
するとやはり無限に自分が映し出された。
こんなことをして何になるというんだ。だけど、俺はそこに何かを見つけることができる気がした。
無限に続く俺自身の顔に、一つ違和感を覚えた。
「見つけた!」
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