十三番線

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俺は一つだけ、無表情の俺と違う表情を浮かべるそいつを見つけることができた。 鏡に手を伸ばすと、俺はそのまま鏡に吸い込まれた。 俺は走ってそいつを捉えることができた。 「おい、お前!いい加減にしろ!俺を元の世界に返せ!」 「あーあ、折角人間の世界に暮らせると思ったんだけど、バレたか。」 「世界が滅んだってのは、嘘だったんだな?」 「ああ、そうだよ。でも、今お前が居る世界が別次元で人間の世界ではないのは本当。」 「俺を元の世界に返せよ!」 「ああ、わかったよ。俺は元の世界に帰ることにする。短い間だったけど、楽しかったよ。」 そいつがそう言い残すと俺は元の洗面所に立っていた。 合わせ鏡は永遠に俺自身を映すばかりだった。我に返った俺は、自分自身を疑った。 もしかして、俺は壊れているのか? とりあえず、眠ることにした。眠ることが全ての解決になるのではないかと思った。 駅は元の駅に戻っていた。雑踏が愛おしく感じた。喧噪に溢れた街、それぞれの個性がひしめき合っている。確かに俺達は生きている。 「きゃあああ!」 突然の叫び声に俺は振り返る。 そこには、鮮血の血だまりができており、その中央に誰かが倒れている。 いきり立った誰かが叫びながら刃物を振り回している。 大変だ。警察を呼ばなければ。 そう考えていると、すぐに警察官二人が到着した。 俺は安堵して行方を見守った。 すると、おもむろにその警察官は拳銃を引き抜くと、その刃物を持った男の頭を撃ちぬいた。 男はばったりと倒れた。 嘘だろ?頭を狙って撃った。映画で見るのとは違って、それは凄惨なものだった。 頭を撃ちぬかれた男の顔の半分が飛び散った。 それとともに、周りからの拍手喝采と称賛の雄たけび。 救急車が到着し、刺された人をストレッチャーに乗せて搬送。 撃たれた男はゴミのようにコンテナーに叩き込まれてパッカー車に叩き込まれて粉々になりながら血しぶきをまき散らした。 俺はあまりのことに言葉を失い、その場に立ち尽くしていた。 この世界も違う。 いったい俺はどこに帰って来たんだ。 その時、遠くから俺に近付いて来る女が居た。 「き、君は・・・・!」 それはかつての恋人だった。 「お帰り、悠馬。」 俺は、その場にへたり込んだ。 俺がかつて、裏切った女。 居るはずの無い彼女が何故ここに? 彼女は俺の裏切りを悲しんで自ら命を絶ったはず。 じゃあここは・・・。
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