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四番線
今日も俺は、いつものように、電車に揺られている。
変わり映えのない面子が、皆一様に、淀んだ瞳で電車に揺られている。
誰一人、はしゃいだり、大声で話すものもおらず、ひたすら静寂という重みだけが空気に溶け込んで、俺たちを押しつぶしている。
たまに、どこからか、小さな子供が乗り込んできて、はしゃぎまわることがある。
だが次第に、子供はこの電車が普通の電車でないことに気づくのだ。
「ママ?ママ?どこにいるの?」
普段無表情で淀んだ瞳の住人達が一瞬だけ、憐憫の目でその子供を見るが、すぐに元の表情になる。
ついに子供は泣きだしてしまう。
見かねた新参の婆さんが仕方なく、その子供の背中をさすった。
「坊や。坊やは、もうママとは会えないんだよ。」
「嘘だ!ねえ、おばあちゃん、僕と一緒に、ママを探して?」
ゆっくり首を振る婆さんに、子供は地団太を踏んで駄々をこね始めた。
「ママー、ママー、どこにいるの?ママー!」
正面に座っていた、少年が、その子供の目の前にしゃがんだ。
「いいか、坊主、よく聞け。お前は、もう死んでるんだ。」
小さな子供にそんなことを言って、理解できるわけがないだろう。
俺は、少年の稚拙さに呆れた。
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