私というもの

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それでもしばしば失敗して、上記の一発を食らうのであったが、へらへらと愛想良くしてその場を凌いだ。 発言者は寧ろほめ言葉のように上記を扱っていたが、「年上しかいない職場で居場所を求め働く私」にとっては、他の社員と私、の間に太い境界線を引かれている気分になった。 私もきっと、軽蔑していた犬だったのだ。 四年以上も勤めて、社員の一人にも本音で話せなかった。 四年目のある日、人事異動で他の店舗から社員が一人うちの店舗に来た。 勿論年上であったが、話した感じは気さくで、社交的な感じだったので、私は少しほっとした。 しばらくして、私はその人とペアを組み仕事をすることになる。 今までも担当する部門は違えども共に働いてきた仲間、という意識がもう私の中にはあったので、そこに何の憂いもなかった。 だけども、担当部を共にした彼女の私に対する態度は、日に日に変わっていった。 それは決して大きな変化ではない些細なものなのだが、言うじゃないか、「塵も積もれば」と。 初めは私が彼女のしていた仕事のちょっとした間違いを遠回しに指摘したことに始まる。 「ここ、こうじゃなくて、こうじゃないですかね?」 「あ、そうかな?本当だ!ごめーん。」 申し訳なさそうに言葉を選びつつ恐る恐る指摘した私に、彼女はそう言って笑った。     
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