私というもの

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「これでやっとみんなの行進に、私も加わることができる。」 安堵にも近かったかもしれない。私は何より群からでるのが一等苦手だったから。 だけど私の人生は、私にそう甘い顔はしてくれなかった。 進学を決めた大学の受験を三日前に控えたある日、赤本片手に教室で補修の大詰めをしていた私に、職員室から駆けてきたのだろう担任の先生が私を呼びだした。 「お前の行く予定の大学な、奨学金使えないんだ。」 日の暮れかかって赤い廊下が、私には世界で一番寒い場所のように思えた瞬間だった。 その大学へ行くために、準備をしてきた。 毎日、睡眠時間を削り、授業が終わっても友達と居残り、帰れと急かされるまで勉強をした。 母子家庭で育った私の家に蓄えは無く、奨学金の申請をし、受給の資格が有ることを伝える大学に提出する書類の準備もできていたし、模擬試験の結果では殆ど合格できるだろう、というお墨付きまで貰っていた。 だのに運命は残酷だ。私は何もかも準備のできあがった三日前に、行き先を絶たれた。 担任は三日前になって気付いた明確な理由は言わなかったが奨学金でなくとも、大学へ行くためのお金を借りる方法はあるから、市役所へ行けと担任は私を促した。 だけど、容易ではなかった。     
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