私というもの

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他の社員とは笑顔で朗らかに、時折冗談まで織り交ぜて喋るのに対して、私に指示を出す時の彼女の目は、直視するのも恐ろしいくらい冷たく、口調も棘ばかりだった。 私はなぜ彼女にそんなに嫌われてしまったのか理由が分からず、ただ必死に彼女に好かれようと、言われるがまま働いた。 それだけが私がこの場所でやっていくための道なのだ、と心から信じていた。 彼女の私への冷たい態度の真意は、程なく判明する。 その仕事に就き一年、私は様々な事を学んだ。 ある時分かったのだ。私の働く店舗の中では、店長である彼女が一番職歴が浅いということが。 「ああ、そういうことか」と私は納得した。自分より強いものには逆らえない犬のような人なのだと、私は彼女を分析した。 職歴が彼女より上、なのが彼女にとって絶対の服従条件であり、彼女もまた居場所を失わないために必死に尻尾を振っている。 その反動とも言うべき衝動が、唯一職歴が彼女よりも下である私に刃のように向けられていたのだと。 一年、決して長くもないが、短くもない間、彼女に怯える日々を過ごしてきた私は、それが分かって以来、恐怖と共に軽蔑するようになった。 その後、仕事を続ける内に、店長はころころと変わった。だかその殆どは、私を虐げた店長と本質は変わらなかった。 「また犬だ。」 私は代わる代わる店長の本質を見る度に、そう呟いた。     
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