私というもの

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一方で、当時私に素っ気なかった社員達は、私に対しての態度が変わっていった。 「警戒を解いた」と言っても良いかもしれない。 気軽に私の質問に応じ、愛想良く対応してくれるようになり、冗談まで言って私を笑わせたり、また私が言った冗談に笑ってくれるようになっていった。 数年がかりでやっと私は職場に椅子を与えられたような気がした。 そこから二年ほどは、仕事にもやりがいを感じていたし、社員の人たちとも打ち解けたこともあり、楽しく日々勤めていた。 勿論、苦情などの対応など、楽しいことばかりでは無かったが、それでも社員達とふざけて笑いあってしまえば、乗り越えていけた。 気付けば私は26になっていた。 職歴もそれに比例して四年を過ぎ、五年目へと踏み出していた。 それでも自身の入社当時の辛い思い出を私は決して忘れられず、アルバイトであろうが新入社員であろうが、私と同年代が入社してくることもなかった職場では、常に私が一番年齢的には下であったこともあり、私は必要以上に新参者には気を使い、言い回しにも十分気を使った。 「こんなことを若造の私が言ったら、失礼かしら」 常に私は職場の人間全員に、言葉を選んで、態度を選んで、話題を選んで接していた。 「あなたは若いからいいよね」という一撃を食らわないために。     
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