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彼は、笑っていた。
「何やってんだよ、あと少しだったのに」と私の頭を軽く叩く。
「強いなあ、君は」
彼と同じように、笑ってみせる。
私の笑顔は、長く持たなかった。
目を開けると、彼のベッドの上だった。
布団を剥がして身体を起こす。
頭がズキズキと痛む。目が上手く開かない。
携帯を見ると、時刻は午前5時。始発が動き出すまでは30分ある。
寝返りを打つと、ソファでは吉田充が丸まるようにして寝ていた。
布団をかぶせ、玄関へと向かう。
詩音、と彼の声が聞こえた気がした。
その声に、ありがとう、と声に出さず応える。
ありがとう、さようなら。ドアを開き、外に出た。
空は夏と比べるとまだ暗く、空気は肌寒かった。
私は一歩踏み出せるだろうか。前に進めるだろうか。
冷たい風が髪を揺らす。
いつもより早足で、目の前の落とし穴を、私はジャンプした。
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