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「そう、なんだ」
吉田充の言葉を聞いて、私は咄嗟にそう返した。
ドアを開いてパンプスを脱いでいる間、
玄関でずっと待っているから何か変だと思った。
だけど私はバカだから、きっと彼は今日寂しかったんだろうと少し嬉しい気持ちだった。
「おれ、好きな人が出来た」
彼はそれだけ呟くと部屋へと戻っていく。かさり、とゴミ袋が音を立てる。
頭の上から声がするもんだから、
まるで神様からの啓示だなあなんて考えて、靴を揃える。
吉田充とは、3ヶ月前に別れた。
特に大きな喧嘩をした訳でも、浮気をされた訳でも、もちろんした訳でもない。
デートも毎回楽しかったし、彼がたまに作ってくれる豚キムチはとても美味しいし、身体の相性だって悪くなかった。
ただ、気付いてしまったのだ。見えてしまったのだ。
私たちは、赤い糸でつながってなんかいない。
甘いリボン結びでつなげたこの糸の先は、見えない誰かの元に、きっとある。
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