1人が本棚に入れています
本棚に追加
「ふぅん、そっかあ。いいね。」
静寂に一間置いて、私は言葉を返す。
声が少しかすれた。
「ねえ、充」
「ん。」
画面の中で、キャラクターがジャンプ。
敵の攻撃をよけて、1体にキック。
「赤い糸って、あるのかなあ」
敵の反撃を食らって死亡。
間抜けな音と共に残機が1つ減る。
「…あるんじゃないかな、とは、思う」
リスタート。少し先には、落とし穴。
「そっかあ。だけどさ、世界には、数えきれないくらい沢山の人がいてさ、」
「うん」
落とし穴をジャンプ。間一髪、地面に足を着く。
「そんな中から、糸の先の人に出会うのなんて、
きっとすごく時間がかかると思うし、大変だと思うんだ」
キャラクターに気付いた敵が、ゆっくりとキャラクターに近づいてくる。
「だから神様ってさ、とってもひどいなあって、思うんだ。」
彼が喉を鳴らす音が聞こえる。
「…おれはね」
キャラクターが敵に向かってキック。
敵の反撃は空を切った。
「切ることもできるんじゃないかな、って思うんだ」
糸だしね、と、笑い声混じりの呟き。
キャラクターのパンチが敵に命中。敵が消える。残り、1体。
「その糸を切ってでも、結びたいなあと思える人がいたって、いいんじゃないかな」
「少なくともおれは、そんなつもりで、君と付き合っていたよ」
キャラクターのパンチ。敵が怯む。あと一撃。
私は、彼の腕をグッと掴む。
画面の中のキャラクターは動かない。
敵の剣がキャラクターを突き刺し、キャラクターは死んでしまう。
ゲームオーバーの画面がテレビに浮かび上がった。
ごめんね、と言いたかった。
だけど、顔を上げることができない。
コントローラのボタンが、1つだけ深く埋まっていた。
どれくらい呼吸を繰り返しただろう。ゆっくりと、彼の顔を見る。
最初のコメントを投稿しよう!