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転校生の多田君
「転校生なのに、これといった異変も事件も持ってこれなくて申し訳ない」
裏山の秘密基地のなかで、多田君はヤスヒロたちに謝罪した。
ヤスヒロたちはなにも返せなかった。ここ数日自分たちが無意識に抱いていた期待を突っつかれたと気づき、誰もが恥ずかしくなっていたのだ。
転校してきた多田君を真っ先に秘密基地に誘い、ここのメンバーの証であるばかでかいシールをランドセルに貼ってやったのはヤスヒロだ。
「なんとか、みんなの期待に答えたいのだけれど」
ヤスヒロたちは慌てて遠慮する。多田君からは都会の話も聞いたし、流行ってるゲームや漫画はだいたい知っていたから、それだけでも彼らには充分だ。
でも多田君はいやに真面目になって言う。
「いやいやでも、もう明日から夏休みなんだよ。なにかみんなで楽しいことしようよ。花火も虫取りもいいけどさ、なんかこうもっと、普通はやらないようなことを」
実は多田君がいちばんイベントに飢えているのではないかと、ヤスヒロたちは疑い始めた。
「よし、僕がなにか、みんなで楽しめるような面白いことを探してくるね」
明日の朝また集まることにして、今日はそこで解散とした。
夜にヤスヒロの家を訪ねる者があった。多田君だ。玄関に棒立ちになって、嬉々として喋る。
「思わぬきっかけですごいことを思いついたんだ、明日みんなに教えるから楽しみにしていてくれ」
そのとき後ろからヤスヒロのお母さんが話しかけてきた。
学校から連絡があって、多田君が下校したまま帰宅していないのだという。
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