転校生の多田君

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 多田君ならいまそこにとヤスヒロは言いかけて、玄関にもう誰もいないことに唖然となった。  警察や地元の人たちが多田君を夜通し捜索したが、夜が明けても見つからない。  多田君はなにを思いついたっていうんだ。ヤスヒロは眠れなかった。  腫れぼったいまぶたのままで翌朝、予定通りヤスヒロたちは秘密基地に集まる。  みんなそわそわしていた。そこへ当の多田君が現れた。 「いやーみんな、お騒がせして申し訳ない」  全然悪びれる様子もない。  秘密基地がなんだか暗い。造りが悪いから、採光が不安定なだけだろうとヤスヒロは思いたかった。 「結束して冒険する、一度やってみたかったんだけどね」  笑いだす多田君。  夏の陽射しが、秘密基地の影を払う。 「まさかこの僕のことで結束することになるとは」  みんな、目の前にいるものの様がおかしいことに気付きはじめた。 「あんまり凝った場所だと道のりが大変でしょ? だから運良く線路沿いでよかったよ」  誰もなにも返せなかった。 「さあ、僕を捜しにいこう」  こうして、ヤスヒロたちの夏休みが始まった。
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