50人が本棚に入れています
本棚に追加
鏡越しにエクリュの手が伸びてくるのを見て、僕は思わずその手を叩いた。……少しでも僕が考え込むとこうだ、この男は。油断も隙もない。
「そう殺気立つなって。……無理もないとは思うけどさ」
そして、彼は僕がこんなことをしても、決して咎めたり逆上することはない。普段、何を言っても激高するような人間とばかり喋っているせいか、エクリュとの会話は逆にやり辛い――――が、あれらと比べて精神的には楽だ。
「な、せめて冷やそうぜ。冷やしただけでも楽になるからさ」
「…………充分冷やしたよ。さっき外でね」
嘘は言っていない。あれだけ寒い場所を歩いて帰ってきたのだから、冷えていないことはないだろう。……そんな皮肉を、彼が素直に受け取るわけないとは知っているが。
「違うって、もっとしっかりと冷やすんだよ。大体、あんな冷やし方はなってない。俺の方がもっと上手く手当できる。……な?」
「あんな冷やし方」。ただの外気と何を張り合っているのか。
……わかっている。僕だって馬鹿じゃない。変に意地を張るより、さっさと手当してもらったほうがいいに決まっている。そっちの方が、エクリュとの話をすぐ終わらせることもできる。だけど、
「僕のようなモノに、手当なんていらない」
最初のコメントを投稿しよう!