その1「クローン」

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 鏡越しにエクリュの手が伸びてくるのを見て、僕は思わずその手を叩いた。……少しでも僕が考え込むとこうだ、この男は。油断も隙もない。 「そう殺気立つなって。……無理もないとは思うけどさ」  そして、彼は僕がこんなことをしても、決して咎めたり逆上することはない。普段、何を言っても激高するような人間とばかり喋っているせいか、エクリュとの会話は逆にやり辛い――――が、あれらと比べて精神的には楽だ。 「な、せめて冷やそうぜ。冷やしただけでも楽になるからさ」 「…………充分冷やしたよ。さっき外でね」  嘘は言っていない。あれだけ寒い場所を歩いて帰ってきたのだから、冷えていないことはないだろう。……そんな皮肉を、彼が素直に受け取るわけないとは知っているが。 「違うって、もっとしっかりと冷やすんだよ。大体、あんな冷やし方はなってない。俺の方がもっと上手く手当できる。……な?」  「あんな冷やし方」。ただの外気と何を張り合っているのか。  ……わかっている。僕だって馬鹿じゃない。変に意地を張るより、さっさと手当してもらったほうがいいに決まっている。そっちの方が、エクリュとの話をすぐ終わらせることもできる。だけど、 「僕のようなモノに、手当なんていらない」
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