その2「エクリュという男」

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その2「エクリュという男」

 今日も、あの『教師』が腹を立てている。トラヴィスだ。  殴られているのはマルーンではないが、トラヴィスに目をつけられている子のひとりだ。僕に近いが違う――――まるで後天的に抜けたような――――髪の色をした、歳が十より下の子だ。この子はこの子で、マルーンとは違った形でまた要領が悪い。  頭が悪いわけではないが、絶望的に周囲の空気を読めない。些細な刺激で激高しやすいタイプのトラヴィスとの相性は、これ以上ないほどに最悪だ。 (ああ、可哀想な奴)  昨日のように、僕へとお鉢が回ることがないようにと小さく祈りながら、僕は窓辺へと目をやる。外は猛吹雪だ。あんな場所を出歩いていたら、たぶん一瞬で足を取られ雪に埋もれてしまうことだろう。 (外に出られる可能性って、あるのかな)  考えた瞬間、「馬鹿なことを」と自分でも思った。数秒前に答えは出ているのに、どうして僕はこんなことを考えているんだ? わけがわからない。  そもそも、僕には何もない。外に出るための手段も、道具も、なにひとつだって存在しない。ならば、可能性はゼロにしかなりえない。どうしようもないのだ、こんなことを考えたって。  
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