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少年――――正確に言うとクローンの僕らには名前はなく、色の名前を模した識別コードで呼ばれている。彼のコードはマルーン、だから僕は彼のことをそう呼んでいる――――には、居眠り癖がある。彼はこの前もこうして授業中に居眠りをし、『教師』――――トラヴィスに手酷く殴られていた。それはほんの数日前のことだから、きっとまだ彼の傷は治っていなかったことだろう。それをさらに殴られて、彼は大丈夫なのだろうか。ふとそう思ったが、それは僕に関係ないことだったので、すぐに頭から消すことにした。
そもそも、そんなこと考えなくても、この短気な『教師』トラヴィスは、何の理由も無しに僕らを殴るような奴だ。人の心配をしている場合ではない。明日は我が身、なんだ。
――――識別コード、フロスティホワイト。長いそれを、周りのみんなはフロスティと縮めて呼ぶ。
僕は「クローン」だ。周りの奴らも、みんなクローンだ。だけど僕以外はそれを知らない。知っているのは僕だけだ。
僕らはいずれ、オリジナルの代替え品として消耗される運命にある。運が良ければオリジナルそのものと存在を入れ替えられるが、ほとんどは内蔵や手足だけをオリジナルに提供して、廃棄される。
ここは『学校』。
クローンがもしもオリジナルと入れ替わることになった時、最低限の知識を持っていなければ、世界で生きていくことはできない。『学校』はそれを回避するためのクローン教育施設であり、『教師』はそこの職員なのだ。とはいえ、そんなことは滅多にない。ほとんどのクローンは内蔵や手足を残していくことしかできない。だから「教師」たちのほとんどは僕らクローンのことを人間と思って接してはいないし、優しく扱ってくれることもない。
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