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しばらくして、僕は再び教科書を開き勉強を始めた。
向かいに気配を感じて、教科書から顔を上げる。拓也が頬杖をついてこちらを見ていた。
「うわ!なんだ、びっくりした」
「すごい集中力だな。俺が座って5分くらい経ったぞ」
拓也はまじまじと僕に言った。
「どうしてここに?」
「ここ、俺のバイト先なんだよ。教えてなかったか?」
「いや、聞いたことないよ」
「それより!おまえ、どういうことだよ!…おまえの好きな女の子って、春川先輩じゃないのかよ」
「聞いてたのか」
「バ、バイトしていたら、二人が話しているのが聞こえたんだよ」
目をそらす拓也に僕は溜息をついた。
「隠す気はなかったんだけどね。探していた人は春川京子先輩ではなかったんだ」
拓也が教えてくれてサークルに行ったときに、春川先輩を見て似ているけど別人だと感じた。
最初に彼女に会ったときに姉妹はいないかと聞きたかったのだが、彼女が家族に関して聞こうとすると笑ってごまかしていた。
「じゃあ、おまえの探している人って…」
「たぶん、彼女の妹」
俺の一目惚れした彼女は春川先輩の妹。この前、飲み会で佐塚先輩との会話で妹の存在を知った。特別親しい人には家族のことを話しているようだ。
「大学のマドンナ、春川先輩の妹か。そんな話は大学内では噂になっていないな。おかしいくらいに…。ただ理事長の孫ってくらいで」
考え込むように腕を組んでいた拓也は突然、ヨシッと言って勢いよく立ち上がった。
「春川先輩の妹や家族のこと、もう少し調べてやるよ。俺も少し気になるからな」
「嬉しいけど、もう合宿で会えるし」
「情報はあったほうがいいだろう?…代わりにまたノート見せてくれよ」
拓也はファミレスの出口の方へ向いた。
「ありがとう、拓也」
拓也の背にお礼を言うと、彼は振り向かず片手を振って出ていった。
数日後、拓也とは連絡が取れなくなった。
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