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第3章
拓也と連絡が取れなくなって迎えた合宿当日。
少し心配しながらも、僕はサークルの仲間とともに、大きな屋敷の門の前に立っていた。
「大きいなー」
瀬戸が思わず声を出しながら、誰もが思った感想を述べた。
大学の近くにある家というのは、大学ぐらいの大きさはある屋敷だった。
「僕も来たことはなかったが、ここまでとはな」
そう言いながら、佐塚先輩はピンポンを押した。
『はい』
「生物サークルのものです」
『お待ちしておりました。お入りください』
年配の男性の声が聞こえてくると、門が音をたてて開き始める。
サークルメンバーと門の中に入っていく。
少し進んだ先に屋敷の玄関らしき扉が見えて、そこから春川先輩が出てきた。
「今日はわざわざ来てくれてありがとう」
春川先輩は黒のワンピースを身にまとい、嬉しそうに笑った。
「今日はお世話になります」
中里は礼儀正しくお辞儀をして、暁月先輩と清水もそれに倣ってお辞儀をする。
「よろしくっす」
「おまえはもっと礼儀を学べって」
瀬戸の軽い挨拶に佐塚先輩がツッコむ横で、僕は普通に挨拶をする。
「よろしくお願いします」
「では、部屋に案内しますね、山田さん。男性陣の部屋へ案内を」
「かしこまりました」
いつの間に春川先輩の後ろに燕尾服姿の男性がいた。
「ご案内しますので、こちらへ」
山田という男の後に続いて、僕たちは部屋へ向かった。
最後を歩いた僕が春川先輩の横を通り抜けたときに、彼女はこっそり僕の手に何かを握らせた。
「あの子が待っているから」
僕の耳元でつぶやくと、何事もなかったかのように暁月先輩と中里のところへ歩いていった。
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