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第1章
「授業、終わったー」
大学の講義が終わって教科書をしまっていると、横に座る友人の拓也はむくりと起き上がって言った。
「お前ずっと寝てたじゃん」
拓也が授業開始10分で頭を突っ伏して爆睡していたのを隣で見ていた。
「この講義は、出席すれば単位取れるから大丈夫さぁ」
僕にそう話しながら、大きな口を開きあくびをする友人にため息をついた。
最初の授業で知り合ってからの付き合いだが、このやりとりは毎度のことだ。
教科書を鞄にしまいこんで、肩にかけた。
「わかったよ。あとでノート貸すから、写しとけよ」
「おう!ありがとよー。綾人、サークルに行くのか」
拓也はニマニマしながらこちらを見つめる。
「そうだよ」
「おまえ、一目惚れした年上の先輩とはどうなったんだよ」
拓也のいう先輩は春川京子。彼女は商学部3年生で理事長の孫だそうだ。この辺では有名人で去年の学祭ではミスコンで優勝、勉強も運動もできる才色兼備な女性だという。学部は違ったが無事に先輩と同じサークルには入ることができた。
「普通に、先輩と後輩だよ。それに…」
「それに?」
「おまえのいう、春川先輩には彼氏いるぞ」
「えっ!」
驚いた顔の拓也を横目に足早に教室を出た。
校舎を出て、サークル棟へ向かっていく。
サークル棟の部室、僕たちが「実験室」と呼ぶ部屋の扉を開いた。
「こんにちは」
「いらっしゃい、吉田君」
中に入ると、春川先輩がにっこり笑って出迎えてくれた。
彼女の手に持っているのは、カエルの死体。
「今日はカエルの解剖ですか」
「そうなの」
なんてこともないように言いながら、僕も実験台に近づいて、作業を始める。
彼女の所属するサークルは、生物サークル。
密かに春川先輩の唯一の欠点と言われることは、このサークルの部長であることだ。サークルの活動内容は、生物の解剖や家畜の飼育など生物に関する様々な研究・活動だ。
彼女は生き物が好きで、自分が入学してからこのサークルを作ったそうだ。
最初は彼女目当てで入った人も多かったらしいが、活動内容についていけなくて去っていったようだ。
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