第1章 初めてのデート

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第1章 初めてのデート

「ただいま」 帰宅の挨拶は出来るだけ大きな声でするよう心がけています。 大きな声を出すの、苦手なんですけどね…… その後はゆっくり廊下を歩きます。リビングルームの前に早く着いてはいけないから。 そんなことをしても意味が無いかもしれないけれど―― 「ほら、詩織が帰ってきた、離れなさい」 「どうしてぇ? いいじゃない私達夫婦だし、詩織さんだって両親は仲良しの方がいいわよねえ?」 開け放たれたリビングの奥から、ねっとりとした声。 丹念に作り上げられた大きな目。 無視は出来ないので会釈だけして急いで2階に上がりましたが――見たくないものを見てしまいました。 リビングで手足を絡め合っていた私の両親。 母親の方は実の親ではなく、母の死後に父が再婚した女性です。 父より18歳も年下で、私とは5歳しか年が離れていません。 彼女が来てもう2年になりますが、未だにどう接すればいいのかわかりません。彼女は恐らく私のことが嫌いでしょうし、そう思うのは私も彼女が苦手だからです。 私や亡き母とはまるで正反対の、家の中でも入念に化粧して着飾って過ごす派手な女性。父が彼女を愛し結婚したなんて未だに信じられません。 「母さんどうしましょう。あの人、私をこの家から追い出す気です」 母の遺影に相談しても答えてくれるはずもなく、階下から近所に聞こえないかと恥ずかしくなる声が響いてきました。
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