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「先生、除霊しかないよ。俺は帰りたいよ。デートの時間だよ。ふられるよ」
振られちまえ。全力で振られてしまえ。
つい心の底からそう思ってしまった。
「除霊……除霊をしなければこの多数決が終わらないってことか」
先生はハンカチを取り出すと、汗をぬぐう。
残光眩しい頭を拭くとき、キュっキュッと体育館の床をバッシュが踏みつけるようないい音がした。
僧侶顔負けの残光を背に、担任の先生が除霊をしようと、俺たちの机の隙間を練り歩いた。
「違う……違う……違う……」
トイレの一番奥に逃げ込んで、一枚一枚扉をあけられて確認されている気分だ。
いや、俺は幽霊じゃないけどね。
でもこれで投票数が正常に戻った後、俺は投票が多い方に投票すればいいわけだ。
……でもこれからは?
ぴたりと先生の足が止まった。
「YOU、霊?」
急に英語使いだした!
「なんで、ばれ、うわああああ」
「れいじくん!」
あ、名前が霊だったんだ。だからか、なんて、思考回路が暴走しながら一人、成仏した。
「……違う、違う、……違う」
先生は悲しむことなく前に進んでいく。その姿が生徒の心を打った。
転校初日の俺も、その残光に拝むほどだった。
それから魔女狩りのように、時には踏み絵のように、先生が『YOU、霊?』と聞くたびに生徒が浄化されていった。
悲しみに前が見えなくても、それでも止まることは許されず、声にならない嗚咽が俺たちを襲いながらも、次々に除霊は行われた。
「君は……」
先生は、美女子ちゃんの前に立った。
「はい。先生。私は霊ではありません」
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