頭領の恋

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 頃は大正の浪漫香る時代のこと、創業当時、それはそれは結構な賑わいだったと幼い時分から聞き及んで育った。現在は遊郭という名で呼ばれることもなくなったし、時代に合わせて店構えから経営の方針から様々と形を変えてはいるが、やっていることは同じである。  遼二は今年で数えの三十歳を迎え、企業戦士としては働き盛り伸び盛りの勢いのある青年だ。一八〇センチを越える筋肉質の長身で、顔立ちはといえば、ほぼ万人が一目で息を呑むほどの男前である。濡羽色(ぬればいろ)の髪は、殆ど手入れなどしていないというのに、艶掛かった長めのショートヘアを無造作にバックに梳かし付けているのが何とも艶めかしい。加えて濃灰とも漆黒ともつかない、見る角度によってはどちらとも取れるようなくっきりとした大きな瞳は切れ長の二重で、特に意識して睨みなどきかせずとも眼力がある。もしも無言の無表情で彼に見つめられたりしたものならば、思わずひるんでしまいそうなくらいだ。が、しかし、何かの拍子にふっと笑顔を見せたりすれば、途端に柔和で人懐こい印象が浮かび上がる。そのギャップにどれ程の女性が心をときめかせたことだろうと思わせるような風貌をしていた。
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