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そんな遼二であるが、実のところ、この羨ましいような容姿とは裏腹に、取り立てては浮き名の噂も聞かれないといったふうであった。周囲の女性たちからは、硬派だの理想が高過ぎるだのと焦れられては、恨み言を言われ続けている。当の本人にしてみれば単に稼業が多忙なだけで、色恋に現を抜かしている時間が持てないというだけなのである。
まあ、取り立てて心を揺さぶられる相手もいないので、どう言われようが右から左と、適当に聞き流してきたのだ。
そう――今までは――確かにそうであった。
◇ ◇ ◇
広々とした玄関には常夜灯が仄暗く足下を照らしている。
もう休んでいるだろうか――、そう思って忍び足でリビングの扉を開けた。すると予想に反して煌々と灯りが点いており、ふと視線をやった大理石のテーブルの上には飲みかけのショットグラスがひとつ。ロックで飲んでいたのだろう氷が溶けきって薄まった黄金色の酒からは、微かなバーボンが香っていた。側には銀製の菓子器の上にクッキーがたんまりと盛ってある。また酒を飲みながら、この甘い菓子をつまんでいたと思わせる。それらを目にした瞬間に、疲れ気味だった遼二の瞳が瞬時に弧を描いて細められた。
「こんなところでうたた寝なんぞしてたら風邪を引くぜ――」
自然と口角も上がり、形のいい唇からやわらかな笑みがこぼれる。
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